そういう意味があったのか!動画の「構図」のポイントを実践解説
同じ一人の人物を撮影するのでも、顔をアップで映すのか、少し引いてバストアップで映すのか、ぐっと引いて周りの背景も合わせて映すのかによって、見る人の印象って全然違ってきますよね。
そういった、フレームの中で被写体をどの大きさ・位置・角度で映すのかという構成を「構図」といいます。
で、この構図をどう決めるのかに、動画制作者のセンスが表れてきます。
今回のテーマは「構図」についてです!
【目次】
1:構図を考える時の基本とは
構図の取り方って、動画制作する皆さんもけっこう悩みどころのようです。よく聞かれるんですよね、「どうやって構図考えるんですか?」って。
確かに簡単ではないと思うんですよ。
ちょっとこの静止画をご覧ください。
これは「カバディ」というスポーツの審判を撮影しているシーンで、私が撮影しました。
次に、同じシーンを、カメラマンではない別のスタッフが撮影したものです。
この2つの違い、もうお分かりですよね。そう、審判の手が見切れているんです。
審判はこの場面で、指を3本立てて「こちらのチームに3点、点が入りましたよ」と合図しています。このシーンでは、この行為に意味があるわけで、その肝心の手を見えなくしてはダメなんです。
構図っていうのは、ごく簡単に言うと、こういうこと。
「何を撮ろうとしているのか」です。
1つ1つのシーンには、必ずそのシーンを映す意図があります。それをカメラマンがよくよく分かっていないと、構図を誤ってしまうというわけです。
寄りとか引きとか、構図のパターンはたくさんありますが、まず基本はこういうことなのでしっかり押さえておいてください。
2:実際の動画で使われている構図を解説!
構図の基本の考え方は分かっていただけたかと思います。
では次に、実際にどんなふうに構図を作っていくのかを、一つの動画を通して少しずつご説明していきたいと思います。
まずはこちらの動画をご覧ください。
この動画は韓国料理のPR目的なんですが、あまりゴリゴリアピールするんでなくて、日本にゆっくり浸透させたいという意図のようです。ドラマ仕立てになっています。
大まかな内容をご説明しておきますと……
韓国人の奥さんと日本人の旦那。旦那は毎日仕事で帰りが遅く、食事はいつも別々。「今日は外で食べよう」と約束した日も、やっぱり旦那は来れなくて、大ゲンカ……。
そんなある日、奥さんが家に帰ると、早く帰って来れた旦那が家でキムチチゲを作って待っていた。あんまり上手ではないけど、でも一緒に食べて仲直り。
こんな感じの、ちょっと切ないけど、心あたたまるストーリーですね。
この動画で使われている構図について、制作者の意図を考えてみたいと思います。
(1)空と街並み
画面の大部分を青空で占めていて、少しだけ街並みを映しています。
この対比で見せたいのは、活気ある街の中で生きる登場人物の、心の寂しさや虚しさみたいなものではないかと思います。
(2)街中
歩いてくる主人公を右に、街並みの風景を左に見せています。
この1カットで視聴者は、このドラマの舞台がどんな所なのかがぱっと分かります。
繁華街でも閑静な住宅地でもなく、これくらいの普通の街中なんだな、というのが伝わりますよね。
だから最初のシーンで背景をしっかり見せるのは大事です。
あと主人公が真正面でなく右から歩いてきますが、人物を正面から撮ると、その人の強い意志や自信を感じる絵になります。
「右に人物・左に背景」というさっきと同じような位置関係にすることで、「不幸せな私・幸せな家族」という比較を印象付けているように思います。
(3)自宅(食事の支度)
これも先ほどと同じく、家で料理しているシーンに変わったというのがパッと見で分かるように、引きで背景を映しています。
また、街中の絵よりも引いて映すことで、主人公の寂しさを端的に表現しています。
ちょっと余談ですが、以前に「子連れ狼」の小池和夫さんのゼミを受講した時に言われていたのが、こういったシーンで「画面で頭が切れると良くない」ということでした。
今の撮影技術だと、引きで撮っておいて後から「やっぱアップに」となっても十分対応できるんで、撮影の時は頭まで全部入れておいたほうがいいですね。
料理を作って、配膳しているところのシーンが続きます。
同じ一連のシーンですが、「アップ→ミドル→引き」と、徐々にカメラアングルが引いていっているのが分かると思います。
この「だんだん引いていく」とか「だんだん寄せていく」というのは構図の基本で、「アップ→→引き→またアップ」みたいなのは、あんまりやりません。
あとカメラの視点が、下からの見上げだったり、上から見下ろしたりしています。
こういう感じでメリハリをつけるのもポイントですね。
いつまでたっても旦那が帰らない、待ちぼうけのカットです。
奥さんの背中に、哀愁が感じられますよね。
こういう、寂しさを表現するシーンでは「引き」を使うのが定番です。
(4)マンション外観
それぞれ真夜中、朝という時間の経過が分かるカットですが、何気に「左に明かり(電灯or太陽)・右に建物」という構図を合わせています。
(5)自宅(置手紙)
奥さんが旦那の置手紙を読むシーン。
手紙が顔にかぶらない、それでいて嬉しそうな奥さんの表情がきちんと分かるアングルで撮影します。
(6)自宅(ケンカ)
奥さんと食事の約束が反故になり、大ゲンカとなる場面です。
実は動画の中で、このシーンだけは、撮影時にカメラが固定されていません。カメラは手持ちでアングルもけっこう揺れ動いています。
こういう不安定な感じから、「今、えらい事が起きている」という緊迫感やリアリティが生まれます。ワイドショーのスクープみたいなものでしょうか。
構図というよりはカメラワークといえるかもしれませんが、撮り方の工夫の1つです。
(7)街中
これはお分かりの通り、動画の最初にあった、街中のシーンと全く同じ場面・構図を使っています。
冒頭から視聴者が感じていた、奥さんのさびしさや、2人がうまくいかないもどかしさみたいなものを思い起こさせる演出です。
実はこの後に、事は一転するんですが……。
こういった、同じ場面や構図を繰り返し使う技法を、お笑いの世界では「天丼」と言ったりします。同じギャグやボケを何度も繰り返し使って笑いをとる、「カブせる」ってやつですね。
(8)自宅(旦那と食事)
家に帰ると旦那が料理しているのを見て、びっくりする奥さんです。
このアップ、見た感じちょっと窮屈な感じがしないでもないですが、おそらく奥さんの感動を表現したかったのかと思います。
「人が心を動かされた場面は、アップにする」というのは、一つの構図の方法ですね。
鍋をのぞく奥さんの、思わず笑みがこぼれるシーン。
これもやはり「心を動かされた瞬間」のアップです。
最後、一緒に食事する2人の対面シーンです。
対面シーンでは、1人のアップと、もう1人の後ろ姿をちょっとだけ画面の端に入れる、というのが定番の構図です。
他の映画やドラマを注意して見ていればよく分かると思います。
いかがでしたか?
わずか3分ほどの動画の中にも、シーンに応じたいろいろな構図が使われているのが分かるかと思います。
もちろん制作者の意図と私の解釈が全て同じではないと思いますが、少しでも皆さんの参考になればと思います。
まとめ
構図を考えるには、常に「何を伝えたいのか」を意識しなければなりません。
まず作品全体を通して伝えたい大きなメッセージがあり、そのために様々なシーンがあって、そのシーン1つ1つの中にカットがあり、それぞれに見せたいもの、伝えたいことがあるわけです。
そのために、どういう構図がいいのかを撮影者は考えるわけです。
実際にどう構図を作るかは、撮影者の感覚・感性による部分も大きいですが、まず原則を知って、良い映画・映像作品をたくさん見て、構図作りのセンスを磨いていきましょう。
以上、「そういう意味があったのか!動画の「構図」のポイントを実践解説」についてでした。